社内通訳をしていたのは、日系大手メーカーの現地法人でした。もともとは業界では老舗のアメリカのメーカーが日系企業に買収された形です。数年ごとに本社からくる出向者の通訳をすることもありました。
成功する出向者とは
出向者として成功するカギは、英語力だけではありません。もちろん英語が堪能に越したことはありません。20人以上の出向者、駐在者を見てきて、成功するカギはやはりコミュニケーションだな、と思います。
ここでいうコミュニケーションというのは英語力と同義ではなく、意思疎通への「取り組み・意欲」そのものです。私が長年住んでいたのはアメリカですから主にアメリカの話にはなりますが、ヨーロッパや東南アジアなども一人通訳時代にはよく通っていましたので、ある程度共通だと思っていいと思います。
まず一番ダメなのが、「本社から来ました。はい、指示を聞いてください。この資料出してください。」の一方通行の上から目線。子会社とはいえ、現地メンバーも老舗でプライドを持って、業界知識も経験もある人たちです。やはり立場上本社から来たとはいえ、リスペクトの気持ちがないと現地からは受け入れられにくいです。
実際、日本最高峰の大学卒の若者がたびたび出張ベースでアメリカに来ていました。数回訪問しただけで、「この工場のことは一番知っている」と公言。その後、工場を出禁になりました。これは嘘のような本当の話なのですが、実際にこのような人もいるのも事実です。結局希望していたアメリカ出向はならず、他の地域担当となったものの苦労しているようでした。
少なくとも担当および関連部署のメンバーをよく知ろうと努力をして、自分の何らかの強みも現地で役立つ方法はないかと模索し、本当に現地のメンバーとして溶け込む努力をする。こんな人が仲間にも助けられて成功するのではないかと思います。
たとえつたない英語でも、こちらが伝えようとすると現地のメンバーは頑張って聞いてくれます。それが成功の一歩だと思います。
いつまでもブロークンな英語でいいのか
最初は意思疎通を図ることが大切ですが、やはり少し時がたち仲間に受け入れられればられるほど、英語力が欲しくなっていくものです。ある程度ブロークンな英語でもやっていけると思いますが、会社の中で中核をなすには、ある程度の英語力が必要となります。
この数字が意味するもの、私は数は訳してあげることはできますが、その先の専門分野にまで入ってサポートをする時間はありませんでした。たとえサポートすることができても、毎回ではありません。独り立ちが必要となる日が来るのです。実際、日本人が入ると会議が長くなるから、レポートを書くので翻訳してほしいと依頼を受けることもよくありました。せっかく現地にいるのにもったいないことです。
コーチング
あるとき、ある程度の期間で英語を特訓してほしいとお願いされたことがありました。当時の私の仕事は、とにかく出張が多く多忙だったので迷いましたが、とても熱心な方だったのでお引き受けしました。単語を覚えて文法の見直しをして、リスニングの特訓をする、という内容で始めました。スピーキングは周りはアメリカ人しかいませんでしたから、普段から英語を話すように心がけてもらいました。
今思えばこれが私のコーチングの原点だったと思います。「アメリカ人は上司の言うことしか聞かない」という極端な思い込みから(事実ではありますが)偉いタイトルをつけてくる人が多い中、一般社員として出向してきて、どんな偉い役職の人よりも活躍しましたし、現地のメンバーからも期間を延長して残ってほしいといわれたのはこの方だけでした。
この経験を通して、自分がしていきたいことが見つかったような気がしました。とても忙しい3か月で舌が、本人の頑張りに私も励まされて走り抜けました。個人として同じように英語を必要とする人のお役に立ちたいと強く思っています。
